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徳島地方裁判所 昭和61年(行ウ)2号 判決 1990年4月18日

原告

鳴瀬憲明

右訴訟代理人弁護士

林伸豪

川真田正憲

被告

池田労働基準監督署長勝本基敬

右指定代理人

田川直之

今井壽二郎

高木傑

西野賢一

播麿憲

田村寿康

阿部尚

佐野正茂

主文

一  被告が原告に対して昭和五七年九月二〇日付けでした労働者災害補償保険法による療養の給付の不支給決定を取り消す。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  請求の趣旨

主文と同旨

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告の従事した労働及び疾病の概要

原告(大正一二年一二月二七日生まれ)は、山林労働者としてチェーンソー等を用いる立木伐採作業に長期間従事していたが、昭和五六年一二月七日当時、腰痛、左下肢痛及びしびれ感、間欠性跛行(歩行困難)の自覚症状があり、徳島市内所在の徳島健生病院(以下「健生病院」という。)の医師から、「変形性腰部脊椎管狭窄症」(以下「本症」という。なお、最近では、脊椎管を脊柱管ということが多いので、以下、最近の用語例に従う。)と診断された。

2  (療養給付請求)

原告は、昭和五六年一二月七日付け(同五七年一月一二日被告受理)の書面で、被告に対し、労働者災害補償保険法)以下「労災法」という。)に基づき、本症に関する療養補償給付である療養の給付(以下「本件療養給付」という。)の請求をした。

3  (被告の決定)

被告は、昭和五七年九月二〇日付けの書面で、原告に対し、本症が労働基準法施行規則三五条に定める業務上の疾病に該当するとは認められないとして、本件療養給付をしない旨の決定をした(以下「本件不支給決定」という。)。

4  (審査請求及び再審査請求の経由)

原告は、本件不支給決定を不服として、昭和五七年一一月一五日に徳島労働者災害補償保険審査官に対して審査請求をしたが、同五八年三月一五日に右審査請求は棄却され、さらに、同年五月一二日に労働保険審査会に対して再審査請求をしたが、同六〇年一二月二七日に右再審査請求も棄却され、同六一年一月二〇日付けの書面でその旨の通知を受けた。

5  (本件不支給決定の違法性)

次の事実に照らすと、原告の腰痛等の前記自覚症状及び本症は、業務起因性のある疾病、すなわち業務上の疾病であるといえるから、これに該当しないとする本件不支給決定は、違法である。

(一) 原告の職歴、作業内容・態様

(1) 昭和二三年から同三六年三月ころまで

原告は、山林労働者として、昭和二三年から同三六年三月ころまでは、徳島県三好郡東祖谷山村及び同県那賀郡木頭村などの山林において、手鋸及び手斧による立木伐採作業に従事した。

原告が従事した作業現場の右山林は、急峻で、傾斜が三〇ないし五〇度の急傾斜地であった。また、手作業による立木伐採作業は、チェーンソーによるそれに比べると、身体的に長時間の力の投入が必要であり、その作業姿勢も、右のような山林においては、身体をかがめた不自然な状態を続けることを余儀なくされるものであった。

(2) 昭和三六年四月から同四九年一二月まで

原告は、昭和三六年四月から同四九年一二月までの間(但し、同四五年五月から同四八年七月までの約三年二月間を除く。)、別紙原告の職歴表1、2記載のとおり、チェーンソーを用いた立木伐採作業を主とする山林労働に従事した。

原告が立木伐採作業に従事した山林の状況は、同表1、2のG欄に記載のとおり傾斜が三〇ないし六〇度の急傾斜地であり、このような山林における立木伐採作業は、極めて不自然な姿勢を強いられるものであった。また、後記(二)のとおり、原告の立木伐採作業は、平均重量約一八・四キログラムのチェーンソーと重量約三・七キログラムの作業時携帯品との以上合計重量約二二・一キログラムの物を保持して行うものであり、移動作業は、重量約一一・一キログラムの移動時携帯品を加算した重量約三三・二キログラムの荷物を担って、急傾斜地である山林を歩行しなければならないものであった。

(二) 原告使用のチェーンソー及び携帯品とその重量

(1) チェーンソー

原告が使用していたチェーンソーは、昭和三六年四月から同三九年一二月までの間においては、別紙原告の職歴表1のE3欄に記載のとおり主としてマッカラー一―八〇型及び同一―五二型であった。昭和四〇年四月から同四九年一二月までの間においては、同表2のE3欄記載のとおり主として、マッカラー七四〇型、同七九五型及び同ドライブギヤ型であり、その本体、燃料、バー及びチェーンの総重量は、別紙マッカラーの重量1に記載のとおりであるが、原告の使用していたバーが、三三インチ特注品から五〇インチのものであったから、その総重量は、軽くても一六・八キログラム、重ければ二〇キログラムとなり、右の中間値である一八・四キログラムが平均的なものであった。

(2) 作業時携帯品

原告は、立木伐採作業をするにあたって、常に、腰鋸及びなた並びにゲージ、スケール、ペンチ、モンキーレンチ等の修理工具等を入れた袋の以上合計重量約三・七キログラムになる作業時携帯品を腰につけていた。

これらの作業時携帯品は、チェーンソーの刃が立木に喰い込んでチェーンソーが使用できなくなったときには原告がこれを修理するためにも、また、伐採直後に立木は急傾斜地を約一〇メートル下に滑っていくが原告がこれを追って下に降り、伐倒木の枝払い、胴切りなどの作業をするときにも、直ちに必要なものであった。

(3) 移動時携帯品

原告は、移動時には、右チェーンソー及び作業時携帯品に加えて、弁当及び工具等を入れた合計約一一・一キログラムの移動時携帯品を携行していた。

(三) 原告が従事した立木伐採作業の腰部への影響

原告が従事した立木伐採作業は、手作業の時代には、長時間の不自然な姿勢での作業であって、腰部に対する負担も相当なものであった。

また、原告が従事した立木伐採作業は、チェーンソーによる作業の時代には、立木伐採作業そのものについて<1>チェーンソーの重量が前記のとおり平均約一八・四キログラムと重かったうえ、チェーンソーのほかに重量約三・七キログラムの作業時携帯品を保持しなければならなかったこと、<2>チェーンソーの振動は腰部にも伝達するが、振動の身体への過度の伝達をおさえるためには力が必要になること、<3>急傾斜地での作業のため姿勢が不自然なものであったことなどから、腰部に対する過度の負担があったうえ、移動作業については、チェーンソーなどの合計重量約三三・二キログラムの荷物を担って、急傾斜地である山林を歩行しなければならないものであって、腰部に対する過度の負担があった。

これらの腰部に対する負担は、腰痛等の自覚症状を伴う本症の発症の基礎的な原因となっている。

(四) 発症経過

原告は、昭和四三年ころから腰痛を自覚するようになった。最初は、中腰で立木伐採作業をしたときに、腰痛や下肢しびれ感を自覚するようになり、さらに、歩行すると腰痛が生じるようになった。

右腰痛等の自覚症状は、次第に増強してきた。そして、原告は、川崎鉄工水島工場を退職した昭和四七年一月には、歩行が制限されるようになったため、岡山県倉敷市所在の武田外科で精密検査を受け、コルセットを着用するようになり、同外科の紹介により、同年一月から六月まで、徳島県三好郡東祖谷山村所在の笹岡医院で治療を受けた。また、昭和四七年二月から同四八年七月までの約一年半の間仕事を休んで安静にしていた。

原告は、このような治療と安静により、前記自覚症状が緩和してきたので、昭和四八年八月から、高知大豊森林組合に雇用されて再びチェーンソーによる立木伐採作業に従事するようになったが、これにより、腰痛が再発し、左下肢痛及びしびれ感、間欠性跛行(歩行困難)の自覚症状が伴うようになり、同五〇年前後には、たまらないような痛みを伴う症状となり、このため、その年以後は立木伐採作業をやめ、その年から同五一年にかけては針灸などの東洋医学的治療を受け、同年一一月一九日ころから、コルセット装着、腰椎牽引などの治療をしはじめたが、症状の改善がみられなかった。

そして、原告は、昭和五六年に、健生病院で腰痛等の前記自覚症状を伴う本症と診断された。

(五) 本症の存在及び因果関係

原告に腰痛、下肢痛及びしびれ感、間欠性跛行の自覚症状があったことは前記(四)のとおりである。

また、原告に本症のあることは、原告の昭和五三年当時の脊髄造影像及び昭和六三年当時のCTミエログラフィー像から、明らかである。なお、原告のレントゲン撮影像からは、不整形の第四腰椎分離症、下位腰椎の骨棘形成及び椎間関節の硬化が認められる。他方、原告のレントゲン撮影像及び髄核造影像等からは、椎間板ヘルニア及び腰椎すべり症があるとは認められない。

原告の腰痛等の自覚症状は、本症に起因するものであって、他のものに起因するものではない。すなわち、原告の腰痛の原因としては、第四腰椎分離症も考えられないではないが、原告にみられる第四腰椎分離症のみでは、原告の下肢痛及びしびれ感、間欠性跛行を説明することはできない。

本症は、加齢によっても生じうるものであるが、原告の本症は、加齢によって生じうる程度を明らかに超えている。それは、前記(一)ないし(三)のように重いチェーンソー等を不自然な作業態様で用いる立木伐採作業に長期間にわたって従事したことにより、腰椎に過度の負担がかかり、これによって発症したものである。

また、原告の不整形の第四腰椎分離症、下位腰椎の骨棘形成及び椎間関節の硬化も、同様に、腰椎に過度の負担がかかる前記立木伐採作業によって発症したものである。

よって、原告は被告に対し、違法な本件不支給決定の取消しを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。但し、昭和五六年一二月七日当時、原告に本症があったことは否認する。

2  同2ないし4の事実は認める。

3(一)  同5冒頭の主張は争う。

この点についての被告の主張は後記のとおりである。

(二)  同5(一)(1)の事実は知らない。

同5(一)(2)のうち、原告が昭和三六年四月から同四九年一二月までの間(但し、同四五年五月から同四八年七月までの約三年二月間を除く。)、チェーンソーを用いた立木伐採作業を主とする山林労働に従事したこと、その内容が昭和四〇年四月以後は別紙原告の職歴表2記載のとおりであることは認め、その余は否認する。

(三)  同5(二)(1)の事実のうち、原告が使用していたチェーンソーが、昭和三六年四月から同三九年一二月までの間においては、別紙原告の職歴表1のE3欄に記載のとおり主としてマッカラー一―八〇型及び同一―五二型であったことは知らない。昭和四〇年四月から同四九年一二月までの間においては、同表2のE3欄記載のとおり主として、マッカラー七四〇型、同七九五型及び同ドライブギヤ型であったことは認め、その余は否認する。原告の使用していたチェーンソーのうち、マッカラー七四〇型及び同七九五型の総重量は、別紙マッカラーの重量2に記載のとおりであって、おおむね一三・五から一五キログラムまでのものであり、マッカラードライブギヤ型については機種が不明であるが、右に準ずるものである。

同5(二)(2)の事実は否認する。立木伐採作業においては、携帯品を多量に装着することは、作業の妨げになるばかりでなく、作業環境を悪化させ、災害発生による生命の危険を誘発させることになるので、通常、原告主張のような三・七キログラムにもなる作業時携帯品を腰につけるということはあり得ない。

同5(二)(3)の事実は知らない。仮に原告が移動時に、原告主張のような移動時携帯品を携行していたとしても、長時間にわたって携行するものではない。

(四)  同5(三)の事実は否認する。

(五)  同5(四)のうち、原告が昭和四七年二月から同四八年七月までの約一年半の間仕事を休んでいたこと、原告が昭和四八年八月から、高知大豊森林組合に雇用されて再びチェーンソーによる立木伐採作業に従事するようになったこと、原告がそのころ(高知大豊森林組合に雇用されていたころ)に腰痛を自覚していたこと、その後、腰痛、左下肢痛及びしびれ感、間欠性跛行(歩行困難)の治療のためコルセット装着、腰椎牽引などの治療をしはじめたが、症状の改善がみられなかったこと、昭和五六年に、健生病院で腰痛等の前記自覚症状を伴う本症と診断されたことは認め、その余は否認する。原告は、昭和四五年五月から同四八年七月までの約三年二月間は立木伐採作業に従事しておらず、その後半は仕事をしていなかったところ、その直後の高知大豊森林組合に雇用された同年八月ころから腰痛を自覚するようになったことは、原告の腰痛の業務起因性に疑いを生じさせるものである。

(六)  同5(五)のうち、原告に腰痛、下肢痛及びしびれ感、間欠性跛行の自覚症状があったことは認め、その余は争う。

原告の昭和五三年当時の脊髄造影像からは、原告に本症のあったことが明らかではない。

むしろ、右脊髄造影像及び当時のレントゲン撮影像からは、第四腰椎分離症が認められ、その分離部に一致した限局性の脊柱管(馬尾神経)の蛇行狭窄が認められる。右のような腰椎分離症があるときは、その部分の腰椎が可動的なものであるから、分離部椎弓の動揺に伴って、椎間板ヘルニアや腰椎すべり症の発症がなくても、分離部の結合織の増殖によって腰痛及び下肢のしびれ等のひどい神経痛症状を惹起することもしばしばみられるものである。そして、腰椎分離症は、その分離部の形状が直線的なものであるか不整形なものであるかにかかわらず、一般に、先天的素質を有する者に成長の過程で分離部の骨改変が起こることによって生じるものであって、労働の積み重ねによって発症する可能性は極めて少ないものと考えられている。そうすると、原告の腰痛等の前記自覚症状は、業務起因性のない第四腰椎分離症と関連した限局性の神経根圧迫によって発生した坐骨神経痛症状とみるのが相当である。

また、原告は、昭和四八年ころから、「左」下肢痛及びしびれ感等の自覚症状があったものであるが、本症による症状は両側性に発生するものであるから、右自覚症状は本症とは異なる原因によって発生したものとみるのが相当である。そして、右自覚症状は、腰椎分離部と関連した限局性の神経根圧迫によって発生した坐骨神経痛症状とみれば、矛盾はしない。

ところで、本症の上位概念である腰部脊柱管狭窄症は、「先天性のみならず、成長期のバリアント、そして加齢的変性に基づく脊柱管周辺の骨、軟部組織の肥大により、神経管の狭小化をきたし、馬尾神経又は神経根の圧迫症状を呈するものの総称」であって、その発症は高齢化に伴って増加するものである。そして、その原因は、学術的に今なお明らかでない部分も多いが、一般的には、脊柱管構成体の加齢的変化を伴う肥厚、変性によるものと考えられており、四五歳を過ぎれば、脊柱管構成体の変性肥厚、変性が高頻度に起こりはじめるものとされている。そうすると、本症が労働の積み重ねによって起こると考えるのは、非常に不自然である。また、昭和五三年当時に原告に本症があったとしても、その当時にあった脊柱管の狭窄は、原告のその当時の年齢である五四歳に照らすと、一般的な加齢の程度を超えたものとは到底いいえない。

原告の昭和五三年当時のレントゲン撮影像及び脊髄造影像とその一〇年後の脊髄造影像及びCTミエログラフィー像とを対比すると、脊椎の老化に伴う変性性脊椎症、すなわち椎体の骨棘形成、椎間関節の硬化は著しく進行したものとなっている。この間、原告はチェーンソーを使用する作業に従事していないから、この間に原告の本症が増悪したとすれば、それは、加齢によるものであるというほかない。

以上のとおり、原告の腰痛は、素因である腰椎分離症による根性坐骨神経痛を主因とし、これに経年齢的な腰部脊柱管狭窄症が加わって生じたもので、原告の従事した業務により加齢的変性の程度を超える変性を生じたものではないというべきである。

三  被告の主張

1(法令の規定)

原告の本件療養給付の請求は、原告が、労災法一二条の八第二項に基づき、同法七条一項一号、一二条の八第一項一号、一三条一項の定める業務上の疾病に関する保険給付の一つである療養の給付を請求するものであるが、同法一二条の八第二項は、労働基準法(以下「労基法」という。)七五条から七七条まで、七九条及び八〇条に規定する災害補償の事由が生じた場合に保険給付を行う旨を定めている。そして、労基法七五条一項は、災害補償の事由の一つとして、労働者の業務上の疾病を掲げるが、同条二項は、右疾病の範囲を命令で定めることとし、これを受けて、労基法施行規則三五条は、労基法七五条二項の規定による業務上の疾病は別表第一の二に掲げる疾病とすると定めている。そして、労基法施行規則別表第一の二のうち、本件に関連するものは、別紙「別表第一の二」のとおりである。

そして、別表第一の二は、三号として、「身体に過度の負担のかかる作業態様に起因する次に掲げる疾病」との表目の下に、細目2として「重量物を取り扱う業務、腰部に過度の負担を与える不自然な作業姿勢により行う業務その他腰部に過度の負担のかかる業務による腰痛」を掲げている。

2(職業性疾病の認定の基本的考え方)

本件は、災害性疾病ではなく、非災害性(職業性)疾病であるが、およそ労働者に生ずる疾病については、一般に多数の原因又は条件が競合しており、単にこのような広義の条件の一つとして労働若しくは業務が介在することを完全に否定し得るものは極めて稀であると考えられる。

しかしながら、単にこのような条件関係があることをもって、業務と疾病との間の因果関係を認めるべきではなく、業務と疾病との間にいわゆる相当因果関係がある場合にはじめて業務と疾病との間に因果関係が認められるべきものである。すなわち、業務上の疾病に関しては、労基法において無過失の補償責任が使用者に課され、その履行が罰則をもって強制されているものである点から見れば、業務とその結果として生じた疾病との関連は厳格に解さなければならないばかりか、業務上の疾病による損失の補償は労働者の過失の有無にかかわらず、専ら使用者にのみ負担が課せられ、業務上である限りにおいては原則として画一的に法定補償額の支払を義務付けていることからも、労働者の罹患した疾病が業務に起因することが明確なものであることを要するものというべきである。

したがって、労働者の疾病が業務上といい得るためには、業務が当該疾病の発症に対して相対的に最も有力な原因であると認められる疾病をいうものと解するべきであり、業務がこのような関係にあることを業務と疾病との間に相当因果関係(業務起因性)が認められるものとして取り扱うべきものである。

3(通達)

労基法施行規則別表第一の二第三号に関する通達として、別表「業務上腰痛の認定基準等について」及び「業務上腰痛の認定基準の運用上の留意点について」に記載のとおりのものが発出されている。

右各通達は、「腰痛の業務上外の認定基準の検討に関する専門家会議」での検討の結果に基づいて出されたもので、専門家による当時の医学的知見を結集した結果が記載されているものであり、現在においても右通達に反する新たな医学的知見はなく、また、その妥当性に疑問を差し挾むような状況もない。したがって、一般的には、当該腰痛が業務起因性を有するといえるかは、右各通達の要件を満たすものかどうかを基本に考えるべきである。

四  被告の主張に対する認否反論

1  被告の主張1のとおりの法令の定めがあることは争わない。

2  同2は争う。

労働者の疾病が業務上といい得るためには、業務が当該疾病の発症に対して合理的関連性を有すると認められることをいうものと解するべきである。

3  同3第一段の事実は認め、同第二段の主張は争う。

被告主張の専門家会議は、多くの職場の実態、作業内容を知らない者によって構成されているものであって、業務起因性の範囲を不当に狭くしていることが多い。また、裁判所が法令の解釈として業務起因性の判断をするに当たって、被告主張の各通達に拘束される理由はない。

第三証拠(略)

理由

一  請求原因1ないし4の事実(原告が従事した労働の内容、期間及び本症発症の経過等、原告が本件療養給付請求をし、被告が本件不支給決定をしたこと、原告による審査請求及び再審査請求とこれに対する決定、通知等)は当事者間に争いがない。

二  原告は、原告の腰痛、左下肢痛及びしびれ感、間欠性跛行(歩行困難)の自覚症状及び本症が業務上の疾病である旨主張するので、判断する。

1  (前提問題)

右自覚症状及び本症が業務上の疾病として労災法上の保険給付を受けられるものか否かについての法令の根拠規定は、被告の主張1(法令の規定)のとおりである。

また、一般に、労働者の疾病が業務上のものといえるか否かについては、被告の主張2(職業性疾病の認定の基本的考え方)又は原告の「被告の主張に対する認否反論2」のような考え方もありうるが、労働者の疾病が業務上のものといえるためには、当該疾病が業務との間に相当因果関係を有することが必要であるところ、業務が当該疾病の発症に対して相対的に有力な原因であるときには、相当因果関係を肯定するのが相当である。

そして、労基法施行規則別表第一の二第三号に関する通達として、別紙「業務上腰痛の認定基準等について」及び「業務上腰痛の認定基準の運用上の留意点について」に記載のとおりのものが発出されていること(被告の主張3第一段)は当事者間に争いがないところ、(証拠略)によれば、右各通達は、「腰痛の業務上外の認定基準の検討に関する専門家会議」での検討の結果に基づいて昭和五一年一〇月一六日に出されたもので、専門家による当時の医学的知見を結集した結果が記載されているものであるが、右各通達には、現在では腰痛発生原因疾患の一つであるとされている本症又はその上位概念である腰部脊柱管狭窄症についての具体的記載が全くみられないこと、腰部脊柱管狭窄症は、昭和四三年当時、すでにわが国に導入されていた概念であるが、昭和五一年にアーノルディらの国際分類が発表されて医学的に確立した、比較的新しい疾病であることが認められ、これらの事実に照らすと、腰部脊柱管狭窄症又はこれに起因する腰痛が業務上の疾病に該当するか否かの判断に当たっては、右各通達をそのまま適用することはできないのであって、腰部脊柱管狭窄症についての現在における医学的知見をも斟酌しなければならないものである。

2(原告の職歴、作業内容・態様、原告使用のチェーンソー及びその携帯品とその重量)

請求原因5(一)、(二)のうち、原告が昭和三六年四月から同四九年一二月までの間(但し、同四五年五月から同四八年七月までの約三年二月間を除く。)、チェーンソーを用いた立木伐採作業を主とする山林労働に従事したこと、その内容が昭和四〇年四月以降は別紙原告の職歴表2記載のとおりであること、原告の使用していたチェーンソーが昭和四〇年四月から同四九年一二月までの間においては、同表2のE3欄記載のとおり主として、マッカラー七四〇型、同七九五型及び同ドライブギヤ型であったことは当事者間に争いがない。

右事実に加えて、(証拠略)によれば、次の事実が認められる。

(一)  原告は、山林労働者として、昭和二三年から同三六年三月ころまでは、徳島県三好郡東祖谷山村及び同県那賀郡木頭村などの山林において、手鋸及び手斧による立木伐採作業に従事した。

その作業現場である右山林は、急峻で、傾斜が三〇ないし五〇度の急傾斜地であった。また、手作業による立木伐採作業は、チェーンソーによるそれに比べると、身体的に長時間の力の投入が必要なものであった。

(二)  原告は、昭和三六年四月から同四九年一二月までの間(但し、同四五年五月から同四八年七月までの約三年二月間を除く。)、別紙原告の職歴表1、2記載のとおり、チェーンソーを用いた立木伐採作業を主とする山林労働に従事した。

その作業現場である山林の状況は、同表1、2のG欄に記載のとおり傾斜が三〇ないし六〇度の急傾斜地であり、このような山林における立木伐採作業は、チェーンソーを保持して作業する足場の確保に工夫を要することもあるうえ、立木の形状、立木の倒れる方向なども考慮して伐採作業をすすめなければならないために、不自然な姿勢を強いられることが多かった。

また、後記(三)のとおり、原告の立木伐採作業は、平均重量約一七キログラム前後のチェーンソーと重量約三・七キログラムの作業時携帯品との以上合計重量約二〇・七キログラムの物を保持して行うものであり、移動作業は、近接する一団の立木を伐採するときは、右チェーンソー及び作業時携帯品のみを携行すれば足りるものであったが、遠方の立木の伐採作業に移行するときは、重量約一一・一キログラムの移動時携帯品を加算した重量約三二キログラムの物を担って、急傾斜地である山林を歩行しなければならないものであった。

そして、原告の平均一日のチェーンソーの使用時間は、その使用期間通算約一〇年間を通じて、六時間前後であった。

(三)  原告が使用していたチェーンソーは、昭和三六年四月から同三九年一二月までの間においては、別紙原告の職歴表1のE3欄に記載のとおり主としてマッカラー一―八〇型及び同一―五二型であった。昭和四〇年四月から同四九年一二月までの間においては、同表2のE3欄記載のとおり主として、マッカラー七四〇型、同七九五型及び同ドライブギヤ型であり、その本体、燃料、バー及びチェーンの総重量は、いわゆるメーカー純正品のバーを付属させるときは、別紙マッカラーの重量2に記載のとおりであるが、原告は、三三インチ前後の特注品のバーを付属させて使用していたことが多かったため、そのときの右総重量は、別紙マッカラーの重量(略)1に記載のとおり約一七キログラム前後であった。

また、原告は、立木伐採作業をするにあたって、常に、腰鋸及びなた並びにゲージ、スケール、ペンチ、モンキーレンチ等の修理工具等を入れた袋の以上合計重量約三・七キログラムになる作業時携帯品を腰につけていた。

これらの作業時携帯品は、チェーンソーの刃が立木に喰い込んでチェーンソーが使用できなくなったときには原告がこれを修理するためにも、また、伐採直後に立木は急傾斜地を約一〇メートル下に滑っていくが原告がこれを追って下に降り、伐倒木の枝払い、胴切りなどの作業をするときにも、直ちに必要なものであった。

原告は、前記のとおり、遠方の立木の伐採作業に移行するための移動時には、右チェーンソー及び作業時携帯品に加えて、弁当及び工具等を入れた合計約一一・一キログラムの移動時携帯品を携行していた。

以上の事実が認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

3  (原告の従事した立木伐採作業の腰部への影響)

前認定の事実に加えて、(証拠略)によれば、原告は、手作業の時代には、立木伐採作業又は移動作業に重量物を保持又は携行することがなく、このためか、腰痛を自覚したことがなかったこと、チェーンソーによる作業の時代に移ってからは、立木伐採作業そのものについて<1>チェーンソーの重量が前記のとおり約一七キログラム前後と重かったうえ、チェーンソーのほかに重量約三・七キログラムの作業時携帯品を保持しなければならなかったこと、<2>チェーンソーの振動は腰部にも伝達していたこと、<3>急傾斜地での作業は姿勢が不自然なものであったことなどから、腰部に対する相当の負担があったこと、<4>遠方の立木の伐採作業に移行するための移動作業については、チェーンソーなどの合計重量約三二キログラムの荷物を担って、急傾斜地である山林を歩行しなければならないものであって、腰部に対する相当の負担があったことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

4  (本症の発症経過)

請求原因5(四)のうち、原告が昭和四七年二月から同四八年七月までの約一年半の間仕事を休んでいたこと、そのあと、昭和四八年八月から、高知大豊森林組合に雇用されて再びチェーンソーによる立木伐採作業に従事するようになったこと、原告がそのころ(高知大豊森林組合に雇用されていたころ)に腰痛を自覚していたこと、その後、腰痛、左下肢痛及びしびれ感、間欠性跛行(歩行困難)の治療のためコルセット装着、腰椎牽引などの治療をしはじめたが、症状の改善がみられなかったこと、昭和五六年に、健生病院で腰痛等の前記自覚症状を伴う本症と診断されたことは当事者間に争いがない。

右当事者間に争いがない事実に加えて、(証拠略)によれば、原告は、昭和四七年二月から同四八年七月までの約一年半の間仕事を休んでいたこと、そのあと、昭和四八年八月から一〇月にかけて高知大豊森林組合に雇用されてチェーンソーによる立木伐採作業に従事したこと、これにより、腰痛、間欠性跛行の自覚症状が発生したこと、これ以前には、一過性の非継続的な腰痛はあったものの、それ以上のものはなかったこと、原告は、昭和四八年一〇月から同四九年九月までは、腰痛があったにもかかわらず、立木伐採作業に従事していたこと、昭和四九年九月から同年一二月までは立木伐採作業に従事はしたが、腰痛、下肢痛及びしびれ感、間欠性跛行により一キロメートル以上の歩行が困難となったこと、そこで、原告は、以後立木伐採作業をやめ、昭和五二年一月ころからは、白ろう病の治療とともに、腰痛等の前記自覚症状の治療のために、コルセット装着、腰椎牽引などの治療をしはじめたが、症状の改善がみられなかったこと、原告が昭和五六年一二月に健生病院で診断を受けたときは、腰痛、左下肢痛及びしびれ感、間欠性跛行の自覚症状があり、理学所見では、坐骨神経痛を肯定する所見(SLRテスト、ブラガード・テストいずれも+)があったことが認められ、右認定に反する原告本人の供述部分は、(証拠略)に照らしてにわかに採用しがたく、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

5(本症の存在と因果関係)

(一)  請求原因5(五)のうち、原告に腰痛、下肢痛及びしびれ感、間欠性跛行の自覚症状があったことは当事者間に争いがない。

また、原告の右自覚症状は、昭和四八年八月から一〇月にかけては、腰痛、間欠性跛行であったこと、同年一〇月から同四九年九月までは、腰痛であり、同年九月から同年一二月までは腰痛、下肢痛及びしびれ感、間欠性跛行(一キロメートル以上の歩行が困難)であったこと、以後、右症状は治療によっても改善がみられなかったことは、前認定のとおりである。

(二)  そこで、まず、本症の存否及びその発生時期を検討する。

(証拠略)によれば、腰部脊柱管狭窄症は、「腰部の脊柱管が、脊椎骨、靱帯、椎間板、椎間関節などの腰椎の脊柱管構成要素の変性、破壊、肥厚などにより圧迫され、馬尾神経や神経根が長年にかけて絞扼されて生じる神経症状」であり、「<1>腰痛、<2>坐骨神経痛を主とする下肢の疼痛・しびれ、<3>間欠性跛行」の三つの主症状がそろっていれば、他の疾患との鑑別診断は容易であり、とりわけ、間欠性跛行は、腰部脊椎(ママ)管狭窄症の特徴的所見とされていること、また、腰部脊柱管狭窄症の分類については、論者によって細部に異なるところがあるが、アーノルディらの提唱した国際分類を基礎としておおむね、先天性発育性のものと後天性のものとに大別され、後者は更に<1>変形性、<2>変形性すべり症性、<3>椎間板ヘルニアの合併、<4>腰椎すべり症性、腰椎分離すべり症性、<5>医原性、<6>後外傷性、<7>骨疾患性などに細別されていることが認められる。

(証拠略)によれば、健生病院の医師四宮文男は、昭和六三年一〇月五日、原告の正面、側面及び斜位からの脊髄造影及びCTミエログラフィーを実施したこと、右脊髄造影像(<証拠略>)及びCTミエログラフィー像(<証拠略>)からは、原告の第四腰椎以下にびまん性の脊柱管狭窄のあること、腰椎に相当進行した骨棘形成があり、腰椎すべり症はないことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

(証拠略)によれば、昭和五三年五月二九日当時の脊髄造影像(<証拠略>)、同年一月一三日ないし同五五年六月五日にかけてのレントゲン撮影像(<証拠略>)及び同五八年四月五日当時の髄核造影像(<証拠略>)からは、原告の第四腰椎以下にびまん性の脊柱管狭窄があること、腰椎に骨棘形成があること、第四腰椎分離症があること、腰椎すべり症及び椎間板ヘルニアはないことが認められ、右認定に反する(人証略)は前掲証拠と対比して採用することができず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

以上の事実に、前記(一)の事実を勘案すると、原告には昭和四八年八月から一〇月ころに、既に、腰部脊柱管狭窄症が存在しており、以後、これが加齢に伴い、おおむね増悪すみ経過をたどってきたものと認めるのが相当である。そして、原告の腰部脊柱管狭窄症は、(証拠略)及び証人四宮文男の証言によれば、「変形性」腰部脊柱管狭窄症、すなわち本症であることが認められる。

なお、被告は本症に起因する下肢痛及びしびれ感などの自覚症状な両側性に発生するものであるところ、原告の場合はこれが片側性に発生していることを指摘して原告に本症のあることを否定する旨の主張をするが、(証拠略)によれば、右自覚症状は通常両側性であるが左右差がみられる旨の見解もあることが認められるうえ、前認定のとおり原告の脊髄造影像及びCTミエログラフィー像からは腰部脊柱管の狭窄のあることが明らかであるから、被告の右主張は採用できない。

(三)  すすんで、原告の本症が原告の従事した業務と相当因果関係のあるものか否か、すなわち、業務上の疾病といえるか否かについて、検討する。

(証拠略)によれば、以下の知見が認められる。

腰部脊柱管狭窄症又はその下位分類の一つである本症は、一般に、加齢による脊柱管構成要素の変性等により生じるものとされている。しかし、四足歩行脊椎動物を強制的に二足歩行させることにより四足歩行脊椎動物には通常発生しない椎間板ヘルニアを発生させることができる旨の実験結果もあり、椎間板変性が若年者である二〇歳位から既に発生するものとされていることからすると、脊柱管構成要素の加齢による変性の有力な要因として、二足歩行による脊椎に対する負荷をあげることができる。そればかりか、脊椎に対する負荷は労働によっても生じうる。腰部脊柱管狭窄症の八〇例のうち、重労働従事者が六一例であり、軽労働従事者が一九例であった旨の報告(<証拠略>)、チェーンソー使用振動病患者一三〇例のうち、頑固な腰痛を訴える者は五〇例あり、そのうち、腰部脊柱管狭窄症の者は一〇例あった旨の報告(<証拠略>)、振動病患者二〇〇例のうち、腰部脊柱管狭窄症の者は一四例あった旨の報告(<証拠略>)は、長期間の重労働による脊椎に対する負荷が、脊柱管構成要素の変性を促進する要因となりうること、すなわち、腰部脊柱管狭窄症又は本症を促進する要因となりうることを示唆するものといえる。

右知見に基づき、前認定の事実を総合考慮すると、原告の本症は、単なる加齢的変性として生じたものではなく、加齢的変性に加えて、通算約一〇年間という長期間にわたり、一日平均六時間前後重量約一七キログラム(作業時携帯品を加算すると約二〇・七キログラム)のチェーンソー等を保持した、不自然な姿勢での振動を伴う立木伐採作業に従事したことによる脊柱管構成要素の変性の促進によって、生じたものであって、これが加齢的変性に対比して相対的に有力な原因となっていると認めるのが相当である。

6(結論)

以上によれば、原告の本症及びこれに起因する腰痛、左下肢痛及びしびれ感、間欠性跛行の自覚症状は、原告の従事した業務と相当因果関係のあるものであって、業務上の疾病ということができる。すなわち、原告の腰痛は、腰部に過度の負担を与える不自然な作業姿勢により行う業務による腰痛として、労基法施行規則別表第一の二第三号の細目2に、原告の本症は、身体に過度の負担のかかる作業態様の業務に起因することの明らかな疾病として同細目5にそれぞれ該当するものである。

そうすると、原告の本症及びこれに起因する腰痛、左下肢痛及びしびれ感、間欠性跛行の自覚症状が業務上の疾病に該当しないと判断してした被告の本件不支給決定は、違法である。

三  よって、原告の本訴請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 橋本昇二 裁判官 長谷川恭弘 裁判長裁判官大塚一郎は転任のため署名押印できない。裁判官 橋本昇二)

「別表第一の二」

一及び二(省略)

三 身体に過度の負担のかかる作業態様に起因する次に掲げる疾病

1 重激な業務による筋肉、腱、骨若しくは関節の疾患又は内蔵脱

2 重量物を取り扱う業務、腰部に過度の負担を与える不自然な作業姿勢により行う業務その他腰部に過度の負担のかかる業務による腰痛

3 さく岩機、鋲打ち機、チェーンソー等の機械器具の使用により身体に振動を与える業務による手指、前腕等の末梢循環障害、末梢神経障害又は運動器障害

4 せん孔、印書、電話交換又は速記の業務、金銭登録機を使用する業務、引金付き工具を使用する業務その他上肢に過度の負担のかかる業務による手指の痙攣、手指、前腕等の腱、腱鞘若しくは腱周囲の炎症又は頸、肩腕症候群

5 1から4に掲げるもののほか、これらの疾病に付随する疾病その他身体に過度の負担のかかる作業態様の業務に起因することの明らかな疾病

四ないし八 (省略)

九 その他業務に起因することの明らかな疾病

「業務上腰痛の認定基準等について」(昭和五一年一〇月一六日基発第七五〇号労働省労働基準局長通達)

(本文)

1 災害性の原因による腰痛

(省略)

2 災害性の原因によらない腰痛

重量物を取り扱う業務等腰部に過度の負担のかかる業務に従事する労働者に腰痛が発症した場合で当該労働者の作業態様、従事期間及び身体的条件からみて、当該腰痛が業務に起因して発症したものと認められ、かつ、医学上療養を必要とするものについては、労規則別表第一の二の第三号2に該当する疾病として取り扱う。

(解説)

1 災害性の原因による腰痛

(省略)

2 災害性の原因によらない腰痛

災害性の原因によらない腰痛は、次の(1)及び(2)に類別することができる。

(1) 腰部に過度の負担のかかる業務に比較的短期間(おおむね三か月から数年以内をいう。)従事する労働者に発症した腰痛

イ ここにいう腰部に負担のかかる業務とは、次のような業務をいう。

(イ) おおむね二〇kg程度以上の重量物又は軽重不同の物を繰り返し中腰で取り扱う業務

(ロ) 腰部にとって極めて不自然ないしは非生理的な姿勢で毎日数時間程度行う業務

(ハ) 長時間にわたって腰部の伸展を行うことのできない同一作業姿勢を持続して行う業務

(ニ) 腰部に著しく粗大な振動を受ける業務を継続して行う業務

ロ 腰部に過度の負担のかかる業務に比較的短期間従事する労働者に発症した腰痛の発症の機序は、主として筋、筋膜、靱帯等の軟部組織の労作の不均衡による疲労現象から起こるものと考えられる。

したがって、疲労の段階で早期に適切な処置(体操、スポーツ、休養等)を行えば容易に回復するが、労作の不均衡の改善が妨げられる要因があれば療養を必要とする状態となることもあるので、これらの腰痛を業務上の疾病として取り扱うこととしたものである。

なお、このような腰痛は、腰部に負担のかかる業務に数年以上従事した後に発症することもある。

(2) 重量物を取り扱う業務又は腰部に過度の負担のかかる作業態様の業務に相当長期間(おおむね一〇年以上をいう。)にわたって継続して従事する労働者に発症した慢性的な腰痛

イ ここにいう「重量物を取り扱う業務」とは、おおむね三〇kg以上の重量物を労働時間の三分の一程度以上取り扱う業務及びおおむね二〇kg以上の重量物を労働時間の半分程度以上取り扱う業務をいう。

ロ ここにいう「腰部に過度の負担のかかる作業態様の業務」とは、前記イに示した業務と同程度以上腰部に負担のかかる業務をいう。

ハ 前記イ又はロに該当する業務に長年にわたって従事した労働者に発症した腰痛については、胸腰椎に著しく病的な変性(高度の椎間板変性や椎体の辺縁隆起等)が認められ、かつ、その程度が通常の加齢による骨変化の程度を明らかに超えるものについて業務上の疾病として取り扱うこととしたものである。

エックス線上の骨変化が認められるものとしては、変形性脊椎症、骨粗鬆(すう)症、腰椎分離症、すべり症等がある。この場合、変形性脊椎症は一般的な加齢による退行性変性としてみられるものが多く、骨粗鬆症は骨の代謝障害によるものであるので腰痛の業務上外の認定に当たってはその腰椎の変化と年齢との関連を特に考慮する必要がある。腰椎分離症、すべり症及び椎間板ヘルニアについては労働の積み重ねによって発症する可能性は極めて少ない。

3 業務上外の認定に当たっての一般的な留意事項

腰痛を起こす負傷又は疾病は、多種多様であるので腰痛の業務上外の認定に当たっては傷病名にとらわれることなく、症状の内容及び経過、負傷又は作用した力の程度、作業状態(取扱い重量物の形状、重量、作業姿勢、持続時間、回数等)当該労働者の身体的条件(性別、年齢、体格等)、素因又は基礎疾患、作業従事歴、従事期間等認定上の客観的な条件のは握に努めるとともに必要な場合は専門医の意見を聴く等の方法により認定の適正を図ること。

4及び5 (省略)

「業務上腰痛の認定基準の運用上の留意点について」(昭和五一年一〇月一六日事務連絡第四二号労働省労働基準局補償課長通達)

第1 主な改正点

(省略)

第2 認定基準運用上の留意点

1 災害性の原因による腰痛

(省略)

2 災害性の原因によらない腰痛

(1) 解説2の(1)のイに掲げられた「腰部に過度の負担のかかる業務」に該当すると思われるもののうち、過去に認定した事例には、次のようなものがあること。

(イ) 解説(イ)……港湾荷役

(ロ) 解説(ロ)……配電工(柱上作業)

(ハ) 解説(イ)及び(ロ)の複合……重度身障者施設の保母、大工、左官

(ニ) 解説(ハ)……長距離トラックの運転手

(ホ) 解説(ニ)……車両系建設用機械の運転

(2) 胸腰椎に病的な変性を生じせしめる労働負荷は、「筋・筋膜性腰痛」を引き起こすものよりも強度の負荷と考えられるが、作業態様としては、解説2の(1)のイに示されるものと同様の態様で、より長期間にわたって負荷のあったものが業務上認定の対象となるものであること。

(3) 腰部に過度の負担のかかる業務に従事する労働者に胸腰椎に病的な変性(私的原因による既往症及び基礎疾患を含む。)が認められる場合で、作業従事歴が一〇年程度に達しない者については、解説2の(1)のなお書により取り扱うこと。

原告の職歴表1(昭和36年4月から同39年12月まで)

<省略>

原告の職歴表2(昭和40年4月から同49年12月まで)

<省略>

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